持分会社とは?株式会社と持分会社の違い

持分会社とは?

持分会社は会社法の制定にて合同会社とともに初めて現れた概念で、合名会社、合資会社、合同会社の総称です。

○○持分会社という会社が存在するわけではありません。持株会社とも異なります。

また、持分会社の「持分」とは会社の所有権、すなわち会社のオーナーとしての出資者の権利のことで、「持分」を持っている人のことを「社員」と呼びます。

ここで「社員」とは会社と雇用関係がある従業員ではなく出資者のことで、持分会社では出資者の人的な信頼関係が重視されます。
(法人も持分会社の社員となれます。(会社法598条))

株式会社では出資者が経営に直接タッチすることは無く、株主総会を通じて大事なことの意思決定にだけ関与する「所有と経営の分離」が特徴とされるのに対し、持分会社では基本的に出資者が会社の経営に直接関与します。

必然的に出資者の数も集まる資金も小規模になりますので、持分会社は小規模企業の経営に適した組織形態です。

ただし、会社法の制定による最低資本金制度の廃止や機関の簡略化、商法時代から引き続き規定される株式譲渡制限会社、株主1人での設立が認められること等により、株式会社でも人的な関係を重視した小規模な会社が運営でき、持分会社の設立費用が安いなど一部の持分会社のメリットより、株式会社のメリットの方が多いため、持分会社はあまり利用されていないようです。

株式会社と持分会社の違い

会社法においては、合名会社、合資会社、合同会社の3社を持分会社とし、株式会社と区別しています。

会社法が株式会社と持分会社とに分けている主な理由は、株式会社と持分会社では目的や規模が異なり、そのため出資者の責任や人的関係、必要とされる地位の譲渡の自由度が異なるためです。

すなわち、株式会社は基本的に不特定多数の投資家から広く大きく資本を集めて大規模な事業をすることを目的とするため、出資者の責任を限定するとともに、出資者の地位の譲渡の容易さ、すなわち流通性を確保し、投下資金を回収しやすくする必要があります。上場株式などはその典型です。

一方、持分会社は少数の信頼し合った人たちで運営することを前提としているため、出資者の地位の譲渡には、原則として他の出資者全員の同意を必要とし、出資者の地位譲渡の容易性、投資資金の回収の容易さを確保することを重視せず、出資者間の個人的信頼関係を重視しています。

なお、株式会社の出資者は「株主」と呼ばれ、「株主」の出資、地位は「株式」と呼ばれますが、合名会社、合資会社、合同会社の出資者は「社員」といわれ、社員の出資、地位は「持分」といわれます。

持分会社の特徴・メリット 株式会社との比較

会社法は三篇で持分会社3社に関する法律を会社ごとに別けずにまとめて規定しています。

そして、
・社員の責任範囲の違いによる定款記載事項(会社法576条)
・社員であると誤認させる行為をした者の責任(589条)
・有限責任社員だけの合同会社における出資の履行時期(会社法578条)
・有限責任社員だけで構成される合同会社での減資に対する債権者の異議申し立て(会社法627条)
・出資払い戻し制限(会社法632条)
・利益配当制限(会社法628条)
・無限責任社員が少なくとも1人存在する合名会社、合資会社での任意清算(668条)など、

それぞれの会社によって異なる規定を個別に定めています。

このように持分会社はそれぞれに必要とされる無限責任社員、有限責任社員の有無、合同会社における出資履行のタイミングなど各会社で異なる部分がありますが、共通の特徴として出資者の数が少なく、お互いに信頼関係のある人同士の集まりであることから、民法の組合に似た社員(出資者)間のルールがあります。

株式会社では所有と経営が分離され、出資者である株主が必ず取締役である必要はなく、株主が業務執行をすることはありませんが、持分会社では定款に業務執行をする社員を定めていない場合は、社員(出資者)は誰でも業務執行権を持ち(会社法590条1項)、業務執行の意思決定は社員の過半数で決定されます。

また、株式会社では株主総会で選任された取締役、代表取締役、代表執行役などが会社を代表し(会社法349条、)、出資者である株主は業務の執行をすることを前提としませんが、持分会社では原則として業務執行社員(出資者)が会社を代表します。(会社法599条)

持分会社の業務執行社員(出資者)は会社に対して善良な管理者の注意をもって職務を行う義務を負い、法令や定款を守り会社のために忠実に職務執行する義務を負い(会社法593条1項、2項)、競業、利益相反取引が制限されます(会社法594条、595条)が、この点は株式会社の業務執行者である取締役も同じです(会社法355条、356条)が、出資者である株主には善管注意義務、競業・利益相反取引の制限はありません。

配当についても規定の仕方が異なります。株式会社では配当は「剰余金の配当」として、原則として出資の割合に応じてされます(会社法109条)が(例外は剰余金の配当につき異なる内容の種類株式を発行した場合の優先株、劣後株)が、持分会社では利益及び損失の負担割合を定款で自由に決めることができます。(会社法622条)

持分会社における社員の責任範囲

持分会社の社員は、それぞれの会社の区分に応じて連帯して無限責任または有限責任を負います。

合名会社…無限責任
合資会社…無限責任社員は無限責任、有限責任社員は直接有限責任
合同会社…間接有限責任

無限責任は、会社の債権者に対し負債の全額を支払う責任を負います。よって会社が債務を払いきれない場合は個人財産にて弁済する必要があります。
個人事業主や民法上の組合員も無限責任を負います。

直接有限責任は、会社の債務が会社の財産で債権者に支払いできなくなった場合に、出資の範囲内で個人の財産で支払う責任を負います。ただし、既に履行した出資部分は除かれます。

間接有限責任は、会社の債務が会社の財産で債権者に支払いできなくなった場合に、出資者は出資したお金が返ってこなくなるという意味で責任を負います。会社債権者から直接請求されることはありません。

会社の債権者からすると債権の回収原資として会社の財産以外にも社員の個人財産があるわけですが、個人財産からの回収は無条件に認められるわけではなく、

1.持分会社の財産で債権を全額回収できない場合
2.持分会社の財産に対する強制執行が効を奏しなかった場合

に限られます。(会社法580条1項)
(ただし、2の場合は、社員が持分会社に債務を弁済する資力があり、かつ、強制執行が容易であることを証明した場合は除かれます)

持分会社の社員は、会社債権者に対して保証人のような立場になるわけです。

持分会社の社員の抗弁権

なお、持分会社の社員には会社債権者に対する責任が厳しく課せられるため、

1.社員が持分会社の債務を弁済する場合には、持分会社が債権者に主張できる抗弁で対抗できる
2.持分会社が債権者に対して対抗できる権利(相殺権、取消権、解除権)があるときは、社員は債権者に対して債務の履行を拒むことができる

といった社員の抗弁権が認められています。(会社法581条)

持分会社の社員の加入、退社

持分会社の社員の加入

持分会社においては設立後に社員(出資者)を新たに加入させることができます。
 
社員の加入の効力はその社員に係る定款の変更をしたときになります。

ただし、合同会社においては新たな社員に係る定款の変更時に出資の全部または一部の履行が完了していないときは、当該社員が出資の全額の履行を完了した時に社員となります。(会社法604条)

なお、持分会社の設立後に新たに加入した社員は、加入前に生じていた持分会社の債務についても弁済義務があります。(会社法605条)

持分会社の社員の退社

社員の退社とは会社の存続中に社員が譲渡や払戻しなどで持分を手放し、社員たる地位をうしなうことで、任意退社と法定退社があります。

任意退社

任意退社とは、社員の自由意思による退社で、持分会社の存続期間を定款で定めなかった場合や、ある社員の終身の間持分会社が存続することを定款で定めた場合は、持分会社の社員は、事業年度の終了時に退社することができます。

ただし、社員は事業年度終了の6ヶ月前までに持分会社に退社する旨を伝える必要があります。(会社法606条1項)

なお、退社の時期を定款で自由に定めることができます。(会社法606条2項)

また、持分会社は社員間の人的信頼関係を前提に成り立っていますので、信頼関係が崩れた場合などやむを得ない事由があるときは、会社への予告なくいつでも退社することができます。(会社法606条3項)

法定退社

任意退社、社員の持分差し押さえによる退社、持分会社の解散後清算するまでに継続することになった場合で、継続に賛成しなかったことによる退社、持分会社の設立の無効又は取消しの原因となったことによる退社の他、以下の事由により社員は当然に退社します。

法定退社とは、下記の事由による社員の退社をいいます。

①定款で定めた事由の発生
②総社員の同意
③死亡
④合併(合併により当該法人である社員が消滅する場合に限る)
⑤破産手続開始の決定
⑥解散(④、⑤によるもの除く)
⑦後見開始の審判を受けたこと
⑧除名

なお、⑤~⑦までの事由によっては退社しない旨を定めることができます。(会社法607条)

持分の差押債権者による退社

持分会社の社員は、任意退社、法定退社以外でも退社する可能性があります。

社員の債権者が社員の持分を差し押さえた場合で、差し押さえた債権者は事業年度終了6ヶ月前までに持分会社、社員それぞれに予告し、事業年度の終了時に社員を退社させることができます。

これは、持分の払戻しによる債権回収を目的とした強制的な退社ですので、社員が債権者へ弁済したり、相当の担保提供をした場合は強制退社の効力がなくなります。(会社法609条1項、2項)

商号変更の請求

なお、持分会社の商号に退職した社員の氏や氏名、名称などが使われているときは、退職した社員は氏や氏名、名称の使用の停止を請求することができます。(会社法613条)

持分会社における投下資本の回収

持分会社の投下資本の回収方法には、
(1)持分の払戻し(退社)
(2)出資の払戻し(投下資本の一部回収)
(3)持分の譲渡
の3つがあり、持分会社においても株式会社と同じように投下資本の回収が保障されています。

(1)退社による持分の払戻し

社員が退社した時(社員の死亡や合併で相続人、その他一般承継人が社員となった場合を除く)は持分の払戻しを受けることができます。(会社法611条1項)
 
合名会社の社員は金銭以外の出資も認められていますが、出資の種類にかかわらず、金銭で払戻しを受けることができます。(会社法611条3項)

なお、合同会社においては、退社による持分払戻し額が持分の払戻しをする日の剰余金額を超える場合には、合同会社の債権者は、当該合同会社に対し、持分の払戻しについて異議を述べることができ、さらに債権者には、持分の払戻し内容を公告し意義を述べることができるようになっています。(635条1項、2項)

合同会社は有限責任社員だけで構成されるため、債権者保護の見地から持分の払戻しが制限されています。

(2)出資の払戻し

社員は退社ではなく、社員としての地位を維持したまま、持分会社に対して既に出資として払込み、又は給付した金銭等の一部の払戻しを請求できます。出資が金銭以外の財産であるときでも、財産の価額に相当する金銭の払戻しを請求できます。(会社法624条1項)

ただし、合同会社においては定款変更により出資額を減少する場合を除き、出資の払戻し請求をすることができません。(会社法632条1項)

さらに、出資の払戻し額が

①出資の払戻し請求時の剰余金
 と
②632条1項の出資額減少のための定款変更額

の①と②いずれか少ない額を超える場合は出資の払戻しをすることができないため、合同会社は出資の払戻しの請求を拒むことができます。(会社法632条2項)

合同会社は有限責任社員だけで構成されるため、債権者保護の見地から持分の払戻しが制限されています。

(3)持分の譲渡

持分会社の社員の地位である持分には経済価値がありますので、当然に譲渡の対象になります。

しかし、持分の譲渡により、社員が譲渡人から譲受人へ変わりますが、持分会社では社員の人的信頼関係が重視されますので、誰が社員になってもいいというわけにはいきません。

そのため、持分会社の社員は、定款に別段の定めがない限り、他の社員の全員の承諾がなければ、持分の全部又は一部を他人に譲渡することができないことになっています。(会社法585条1項、4項)

なお、合資会社における有限責任社員や合同会社の有限責任社員のうち業務を執行しない社員は、会社の経営に直接かかわらず、責任も限定されますので、社員の個性が他の社員ほど重要視されないことから、当該社員の持分の譲渡は、定款に別段の定めがない限り、総社員の承諾を必要とせず、業務を執行する社員の全員の承諾があればいいとされています。(会社法585条2項、4項)

退社した社員、持分の全部の譲渡をした社員の責任

退社した社員、持分の全部を他人に譲渡した社員は、その登記をする前に生じた持分会社の債務について、譲渡前の責任の範囲内で弁済する責任を負います。

この責任は、持分会社の債権者が登記後2年以内に請求又は請求の予告をしない場合は、登記後2年を経過した時に消滅します。(会社法586条、612条)

持分の相続及び合併の場合の特則

持分会社においては定款に相続できる旨の記載ない限り、持分会社の社員の持分の相続は当然には認められず、相続人は死亡した社員の退社による持分の払戻しを受けます。

これは、持分会社の社員の地位は相続できないが、社員の持分の価値は相続の対象になり持分の払戻しを受けることができますが、定款に相続できる旨の記載があれば、社員の地位が相続できるということです。

これらのことは持分会社の社員(出資者)が法人である場合で、当該法人が合併により他の会社に吸収され消滅した場合にも適用されます。

すなわち、合併により吸収した会社は、消滅会社(吸収された会社)の社員の地位を当然に承継するわけではなく、承継できるのは定款に合併による消滅の場合でも合併存続会社(吸収した会社)が社員たる地位を引き継ぐ旨の記載ある場合に限られます。

定款で何も決めていない場合は、相続同様、持分の払戻しを受けることになります。(会社法608条)

なお、清算中の持分会社の社員の死亡や合併消滅の場合は、定款の記載に関係なく社員の地位を承継します。(会社法675条)

持分会社の利益配当・損益分配

会社は営利を目的としますが、ここでの営利は、会社が対外的活動により利益を得るだけでなく、得た利益を社員に分配することも意味します。

持分会社も営利を目的としますので、社員は当然に利益の分配を受ける権利があり、また会社に利益配当を請求する権利を持ちます。(会社法621条1項)

さらに、持分会社では、配当に関する事項を定款で自由に定めることができ(会社法621条2項)、出資割合とは関係ない割合で社員間で自由に損益分配割合を決めることができます。
(損益分配割合について定款に定めがないときは、社員の出資割合に応じた割合になります。(会社法622条1項))

会社債権者は、無限責任社員に関しては、会社財産で債権回収ができないときは個人財産からの回収が可能ですので、利益配当に関しては株式会社ほど厳格な規定を置いていません。

ただし、有限責任社員は出資額を限度とする責任しかありませんので、利益配当日における利益の額(配当可能限度額)を超える配当を受け取った有限責任社員の配当返還責任が規定されています。(会社法623条)

*利益の額(配当可能限度額)とは、下記の①又は②のいずれか少ない方の額となります。(会社計算規則163条)
① 配当日における利益剰余金の額(合同会社全体としての限度額)

② a.配当日において配当を受ける社員に既に分配されている利益の額(配当を受ける社員の取り分として設立時から配当日までの会社の利益に損益分配割合を乗じた額)
 b.配当日において配当を受ける社員に既に分配されている損失の額(配当を受ける社員の取り分として設立時から配当日までの会社の損失に損益分配割合を乗じた額)
 c.配当日において配当を受ける社員が既に受けた配当の累積額
 
 ②=a-(b+c)←個々の社員ごとの利益剰余金額

すなわち配当日における会社全体の利益剰余金と配当を受ける個人としての利益剰余金のうち少ない方が利益の額(配当可能限度額)となります。

よって、株式会社においては「株主平等の原則」がありますので株主ごとに配当可能限度額を管理する必要はありませんが、合同会社においては「出資割合=損益分配割合」となりませんので、個々の社員ごとに剰余金を管理する必要があります。

配当可能限度額の具体的計算はこちら

なお、合同会社には有限責任社員しかいませんので、配当額が配当日における利益額を超える場合は配当することができず、社員からの配当請求も拒否できることとされています。(会社法628条)

社員の業務執行 権限、義務と責任

業務の執行

株式会社は不特定多数の出資者から資金を集めるため、出資者全員が会社の経営に関与することは現実的でなく、また非効率なため所有と経営が分離され、経営は経営の専門家に任せるスタンスをとっていますが、持分会社は社員(出資者)の人的関係が濃く、出資者個々の利害が大きく関係することから社員は原則として会社の業務を執行します。(会社法590条1項)

そして2人以上の社員がいる場合、業務執行は、定款に別段の定めがある場合を除き、社員数の過半数により決定します。(会社法590条2項)

ただし、日常業務については原則として社員が単独でできます。(会社法590条3項)

業務を執行する社員を定款で定めた場合

持分会社では所有と経営が一致しますので、各社員が業務を執行し会社を代表することを原則としますが、各社員には個性があり、適正性が異なりますので、定款で一部の社員だけに業務執行権を与えることができることとしています。

業務を執行する社員を定款で定めた場合で、2人以上の業務を執行する社員がいるときは、定款に別段に定めがある場合を除いて、業務を執行する社員数の過半数によって業務執行を決定します(業務を執行する社員が全員退社した場合は、業務を執行する社員の定款の定めは効力がなくなります)。(会社法591条1項、3項)

ただし、支配人の選任及び解任は、定款に別段の定めがない限り、全社員の過半数で決定します。(会社法591条2項)

なお、定款で業務を執行する社員を決めた場合は、業務を執行する社員は、原則として、正当な理由がない限り辞任することができませんが、一方で、正当な理由がある場合は、原則として、他の社員の一致により解任できます。(会社法591条4項、5項、6項)

業務を執行する社員の義務と責任

義務

持分会社の業務を執行する社員は、定款に別段の定めがない限り、株式会社と取締役との関係(委任)と同じような立場)に立ち、善良な管理者の注意をもって、法令及び定款を遵守し、持分会社のために、忠実に職務を行う義務を負います。(会社法593条1項、2項)

また、業務を執行する社員には競業避止義務を負わせ、利益相反取引を制限しています。

すなわち、業務を執行する社員が、

1.自己又は第三者のために持分会社の事業の部類に属する取引をすること
2.持分会社の事業と同じ種類の事業を目的とする会社の取締役、執行役、業務を執行する社員となること

は、定款に別段の定めがある場合を除き、社員全員の承認を必要とし、競業避止義務を負わせ(会社法594条)、

さらに、業務を執行する社員が、

1.自己又は第三者のために持分会社と取引をするとき
2.持分会社が業務を執行する社員の債務を保証することや、社員でない者と持分会社との取引で当該社員との利益が相反する取引をしようとするとき

は、定款に別段の定めがある場合を除き、当該社員以外の社員の過半数の承認を必要とし、利益相反取引を制限しています。(会社法595条)

責任

持分会社の業務を執行する社員は、その任務を怠ったときは、持分会社に対し、連帯して、任務を怠ったことにより生じた損害を賠償する責任を負います。(会社法596条)

なお、業務を執行する社員が有限責任社員である場合は、職務を行うにあたり悪意又は重大な過失があった場合に限り、当該有限責任社員は連帯して、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負うこととしています。(会社法597条)

持分会社の代表

業務を執行する社員は持分会社を代表します。(会社法599条1項)

よって、定款で業務を執行する社員を決めていない持分会社は、全ての社員が業務を執行しますので、全ての社員が会社を代表することになりますが、定款で業務を執行する社員を決めた持分会社は、業務を執行する社員だけが会社を代表することになります。

また、定款又は定款の定めに基づく社員の互選によって、業務を執行する社員の中から持分会社を代表する社員を定めることができます。(会社法599条3項)

なお、持分会社を代表する社員は、持分会社の業務に関する全ての裁判上、裁判外の行為をする権限を持ち、この権限に制限を加えても善意の第三者(代表権に制限があることを知らない者)に対抗することができません。(会社法599条4項、5項)

業務を執行する社員以外の社員の調査権・社員の責任追及訴訟

業務を執行する社員以外の社員の調査権

持分会社は、持分会社を代表する社員などが職務を行うことにより第三者に加えた損害を賠償する責任を負う(会社法600条)ように、持分会社の社員は業務執行権の有無に関係なく、業務執行に対して重大な利害関係を持っているため、定款に別段の定めがあっても、全ての社員は会社の業務や財産の状況を調査することができます。(会社法592条1項)

ただし、事業年度の終了時や重要な事由があるときに調査を制限する旨を定款に定めても定款の効力はなく、ずべての社員は会社の業務や財産の状況を調査できます。(会社法592条2項)

なお、業務を執行する社員は、定款に別段の定めがない限り、持分会社又は他の社員の請求があるときは、いつでもその職務執行の状況を報告し、その職務が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告する義務があります。(会社法593条3項)

業務を執行する社員以外の社員の責任追及訴訟

業務を執行する権限の無い社員であってもその経済的利益は正当に保護されるべきものであることから、株主代表訴訟提起権と同じような権利が業務執行権の無い社員にも認めれれています。

すなわち、業務執行権の無い社員が持分会社に対して社員の責任追及訴訟を提起した場合で、持分会社が60日以内に訴訟の提起をしない場合は、訴訟を提起した社員は業務執行権が無くても会社を代表することができます。(会社法602条本文)

また、持分会社が社員に対し、あるいは社員が持分会社に対して訴訟を提起する場合で、持分会社を代表する社員(当該社員を除く)がいないときは、当該社員以外の社員の過半数で当該訴訟について持分会社を代表する社員を定めることができます。(会社法601条)

特例有限会社

なお、会社法施行前までは有限会社法が存在し、有限会社法に基づく有限会社がありました。

会社法施行により有限会社法が廃止され、有限会社の新設や有限会社への組織変更は認められなくなりましたが、以前からある有限会社は会社法上の株式会社として現在も存在します。

すなわち会社法の施行により有限会社○○は、株式会社○○に商号変更するか、株式会社であっても有限会社○○のように有限会社の商号を使い続けることが可能なのです。

いずれにせよ株式会社ですが、有限会社の商号を使う株式会社を「特例有限会社」といい、特例有限会社は有限会社の商号を使うことを義務づけられます。

特例有限会社は会社法の適用を受けますが、特例として「会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」2条から46条までの規定の適用も受け、これにより、従来の有限会社法と類似した運用が可能になっているのです。

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