会社法とは
会社法の1条には、「会社法とは、会社の設立、組織、運営及び管理について定める法律」とあります。
企業(会社)は、物を仕入れたり製造し、それらに利益を上乗せして販売することで、利益を出すこと(営利活動)を計画的、継続的に行うことを目的とする経済的な存在で、利益を計上し債権者への支払い、配当など営利の追求、分配を特性とします。
すなわち、会社法は、会社や株主、取引先など会社と利害関係者間の利益を調整しつつ、営利の追求といった企業(会社)の特性を実現するための技術的なものです。
現在の会社法は平成17年6月29日に可決成立し、平成18年5月1日から施行されたものですが、意外ですが、これ以前は会社法という法律は日本にはなく、「商法第二編 会社」、「株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律」(商法特例法)、「有限会社法」の3つの法律が現在の会社法の代わりとして存在していました。
これら3つの法律は、会社法の制定により無くなり(いずれも平成18年5月1日廃止)、会社法の中に取り込まれました。
会社法制定の目的・背景
851条まであった商法のうち「第二編 会社」、「株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律」(商法特例法)、「有限会社法」を「会社法」といった新しい法律を制定することになった目的・背景は、以下の4つになりますが、④の「法律の現代化」が最も重要になります。
①商法は明治32年、有限会社法は昭和13に制定されており、法文がカタカナかつ文語体であり読みにくいことから、読みやすく理解しやすいひらがな口語体へ改める
②「商法第二編 会社」、「株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律」(商法特例法)、「有限会社法」と法律が3つあることは重要な規定が散在し実務上分かりにくい
③商法は明治32年に制定された法律であり、現在に至るまでに多くの改正を積み重ねてきました。特に平成9年以降は、世界的な経営環境の変化に対応するため毎年のように改正を繰り返してきました。それで、条文に多くの枝番が付きすぎたため、全体の整合性をとり整理する必要がある
④個々の企業が規制緩和やグローバル化といった経営環境や国際情勢の変化に柔軟に対応できるよう時代に即した法律にする
すなわち、商法と会社法の違いの観点からは、商法から会社に関する条文を抜き出し、現代風にしたものが会社法といった感じです。
商法、商法特例法、有限会社法から会社法への主な変更ポイント
商法、商法特例法、有限会社法から会社法への主な変更ポイントとしては、
①会社設立手続きの簡素化
②取締役、監査役などの会社の機関の要件緩和
③株式制度の変更
④会社形態の変更
などになります。
①会社設立手続きの簡素化
・株式会社の最低資本金制度の廃止
旧商法においては資本金の額は1,000万円以上が必要とされていましたが、会社法においては設立時の資本金は1円でOKとされ、その後は減資により資本金はゼロ円でもOKとされました。(会社法447条2項)
・類似照合規制の廃止
旧商法の19条に「他人ガ登記シタル商号ハ同市町村内ニ於テ同一ノ営業ノ為ニ之ヲ登記スルコトヲ得ズ」とあり、会社法施行前は同じ市町村で同じ営業のために、同じ、もしくはよく似た会社名での設立はできませんでしたが、この規制が廃止されました。
ただし、会社法上では類似商号規制が無くなりましたが、商標権の侵害等は別途の法律違反に引っかかりますので注意が必要です。
・会社の発起設立時の銀行による出資保管証明が不要となりました
旧商法においては発起設立、募集設立とも銀行の出資金保管証明書が必要でしたが、会社法においては発起設立時は銀行の出資金保管証明書が不要で普通預金通帳のコピーだけでOKとなりました。
・現物出資規制の廃止
旧商法では現物出資については設立時の資本金の5分の1超又は500万円超の財産については裁判所の選任する検査役の調査を受けなければならないとされていましたが、実務においては知的財産の出資などの要請が多いことから、会社法においては500万円超の財産についてのみ裁判所選任の検査役の調査が必要となりました。
・事後設立の検査役の調査制度廃止
旧商法では資本金の20分の1以上の対価で会社設立前より存在する財産を営業のために継続使用する目的で取得する場合には、株主総会の特別決議に加えて、裁判所の選任する検査役の調査を受ける必要がありましたが、会社法では検査役の検査が不要となり、純資産の5分の1を超える対価の財産を取得するときに株主総会の決議が必要とされました。
②取締役、監査役などの会社の機関の要件緩和
旧商法では、株式会社の場合、取締役は3名以上、監査役は1名以上の設置が義務付けられていましたが、会社法では、「全ての株式の譲渡について取締役会の承認を要する」旨を定款に定めた会社の取締役は1名でよく、任期も10年まで可能になりました。
また、株式譲渡制限会社は、監査役の設置が任意となり、監査役の任期も取締役と同様に10年まで可能になりました。
③株式制度の変更
・特定の種類株式の譲渡制限を可能とする
旧商法では株式譲渡に取締役会の承認を要する旨を定款で定める場合、全ての株式が譲渡制限株式とされましたが、会社法においては、一部の株式のみを対象に譲渡制限株式とすることができるようになりました。
④会社形態の変更
・有限会社法の廃止
会社法においては有限会社法の機関と同じく取締役1人の会社の設立が認められました。一方で有限会社法が廃止され、有限会社の新設、有限会社への組織変更ができなくなりました。既存の有限会社はそのまま存続が可能ですが、有限会社法の廃止に伴う経過措置により会社法上の株式会社として存続することになります。
・合同会社の新設
旧商法ではなかった合同会社が会社法では認められました。これはリスクの高い会社に出資した場合に、出資者全員の同意で経営はするけれども、出資額に基づく平等ではなく、会社の経営への貢献度に応じた利益の配分を可能にしつつ、会社の債務に対しては出資額を限度にのみ責任をとることを可能にしたものです。
強行法規(強行規定)としての会社法
会社においては営業だけでなく、財務や人事、購買など経営の様々な側面において多くの人が会社が関係し、色々な利害の対立が生じます。
会社は営利を目的としますが、この営利には利益を獲得するだけでなく出資者への分配もあります。この利益の分配は会社債権者との利害が対立する可能性のある行為であり、また利益の分配の仕方によっては出資者同士で利害が対立する可能性があります。
会社法には多種多様な規定がありますが、その根本には利害関係の調整を適切に行い、多くの利害関係者の利益を公平に処理するという目的があります。
そのため会社法には強行法規(強行規定)としての性格を持たせ、会社法の規定に違反する行為を原則として無効としています。
強行法規(強行規定)とは、当事者間の合意がどのようなものであれ、法律の規定の内容どおりに適用される規定をいいます。よって、配当制限規制に違反する配当は、たとえ債権者と出資者の間で合意があっても無効となります。
会社法は商法に比べ定款自治の範囲が拡大されていますが、強行法規性に関しては変更ありません。
定款自治の拡大 定款自治とは
定款自治とは、会社法の大きな特徴の一つで、会社が設置する機関や発行する株式の種類など会社法の規定の範囲内であれば、定款に規定したことが優先されることをいいます。
よって定款自治の拡大とは、定款で定められる会社の裁量権の範囲が拡大したことで、これにより会社は成長にあわせて定款を変更し、会社の骨組みを変えることができるようになりました。
会社法制定前の商法(旧商法)時代に定款自治という概念がなかったのは、旧商法が想定している会社が大企業だけで、日本に多くあるような会社組織であってもオーナー経営の零細企業などは、ほとんど念頭にしていなかったためです。また旧商法では、定款で自由に定めることができる内容が少なく、そのため、零細企業などは実態は別として、法律上の文言に沿った定款を作成するしかありませんでした。
会社法では、法律を企業の実態に合わせ、法律の範囲内での会社に適した定款を認め、今まで以上に会社に責任を負うことも求めているのです。
会社法施行規則、会社計算規則
会社法は979条までありますが、株主、経営者、債権者など企業の経済活動の利害関係者との関係全てを979条の条文で網羅的にルール化することはできません。
そこで細かな部分を法務省令に委任することにし、これを受けたものが会社法施行規則、会社計算規則になります。
会社法施行規則は、会社法全体の細則を定めるもので商法施行規則の後継です(現在も商法施行規則は存在します)。
会社計算規則は、会社の計算(会計)に関する詳細を定めています。
改正会社法のポイント 平成26年改正平成27年5月1日施行
平成26年の会社法改正は、会社法が単体の法律として施行された平成18年以来の大きな改正で、これに伴い「会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」が平成26年6月20日に可決成立し、会社法施行規則、会社計算規則も改正されました。
平成26年の改正の主な目的は、コーポレートガバナンスの強化、親子会社に関する規律の整備などですが、改正内容は多岐にわたり、上場会社に限るものでなく中小企業の経営に重要な影響を与えるものも多く含まれます。
(1)コーポレートガバナンスに関するものとしては、
①社外取締役、社外監査役の資格要件の厳格化
②監査役会設置会社が社外取締役を置かない場、社外取締役を置かない理由の株主総会での説明義務
③監査等委員会設置会社の新設
④監査等委員会設置会社の新設により「委員会設置会社」の「指名委員会等設置会社」への名称変更
⑤会計監査人の独立性強化(会計監査人の選解任等の議案を取締役又は取締役会から監査役又は監査役会が提出へ変更)
⑥株式の過半数を有する株主の異動を伴う第三者割当増資に対する規制
などがあり、
(2)親子会社に関する規律の整備に関するものとしては、
①多重代表訴訟(完全親会社の1%以上の議決権を持つ株主は完全子会社の取締役等に株主代表訴訟が提起できる)
②一定の子会社株式の譲渡に親会社の株主総会特別決議を要求
③90%以上の議決権を持つ株主が少数株主の株式を全て売り渡し請求できる制度の新設
④組織再編行為の事前差止請求
⑤債権者を害する会社分割、事業譲渡に対する規制
⑥グループ内の内部統制システムに関する規定が会社法施行規則から会社法で規定へ
などがあります。
(3)その他の改正内容としては、
①責任限定契約を締結できる取締役・監査役の範囲の拡大
②株式買取請求時の株式対価の公正価格での会社の事前支払い
③監査役の監査を会計監査に限定している場合の登記義務
④web開示のみなし提供対象を株主資本等変動計算書にも適用
などがあります。
会社と個人事業の違い
責任限度額での会社と個人事業主の違い
会社と個人事業との違いとしては様々ありますが、法的側面からは出資者の責任限度額が異なります。会社の業績が悪くなり、債権者への支払いができなくなったときは、株式会社の出資者(株主)や、合資会社の有限責任社員、合同会社の出資者は出資額の範囲でのみ金銭的な責任を負いますので、出資額は戻ってこないかもしれませんが、出資額を超える個人財産まで取られることはありません。
一方、合名会社の出資者や合資会社の無限責任社員、個人事業主は無限責任を負いますので、業績悪化等により事業の債権者に支払いができなくなったときは個人財産をもって返済する必要がでてきます。
ただし、株式上場企業を除き企業は銀行借り入れに対し出資者(代表取締役などの場合が多い)が債務保証をしていますので、実質的には無限責任社員と異ならない場合が多いです。
意思決定方法での会社と個人事業主の違い
株式会社においては意思決定機関、意思決定方法が会社法により法的に決められていますが、個人事業主は事業の全ての意思決定を自分ですることになります。
資金調達手段での会社と個人事業主の違い
個人事業主の資金調達手段は金融機関などからの借入がメインになります。しかし、担保や保証人も限度がありますので、会社に比べ審査も厳しく、借り入れできる額も少額になります。公的機関からの助成金もありますが、会社に比べ、助成金額は低く、助成対象事業の範囲も狭くなっています。
一方、株式会社は元々、大きな事業をすることを前提に所有と経営を分離し、所有者(出資者)と経営者は必ずしも同じではなく、経営者は会社経営のプロとして事業を維持・拡大できるよう金融機関などからの借入、助成金はもちろん、社債の発行、増資など様々な資金調達手段が用意されています。調達できる金額も個人より大きくなります。
また、増資の一種ではありますが、財産を受入れ、対価として株式を発行する現物出資などもあります。
信用面での会社と個人事業主の違い
資金は事業の血液で、基本的にお金がある限り事業は破綻しません。ですから資金力、資金調達力は取引相手からの信用を得るために非常に重要な要素になります。個人事業主であっても、独特の個性で事業が上手くいき、好業績をあげていて、中途半端な会社より取引先の信用力が高いところもありますが、そういったケースは稀で、基本的に会社組織の方が資金調達力が高く信用力があり、そのため会社組織でないと取引しない企業も多々あります。
従業員も会社組織の方が安心できますので、良い人材を集めるためには個人事業主より会社の方が有利です。
税務面での会社と個人事業主の違い
法人には法人税法が個人事業には所得税法が適用されます。法人税と所得税では税率が一定か累進的かが異なり、また法人税は営業損益と投資の売買損益など損益の源泉にかかわらず損益通算し、課税所得を出しますが、所得税は事業の損益と不動産売買損益が通算できないこと等が異なり、課税対象となる金額が一定額を超えると法人の方が少ない税額で済み、メリットが多くながちです。
法人と個人事業主の税務面でのメリット、デメリットは個々のケースにより異なる場合が多いですので詳しくは税理士さんに相談してください。