再転相続とは?再転相続の相続放棄、熟慮期間の問題点、最高裁判例、数次相続・代襲相続・同時死亡・相次相続との違いなど

再転相続の相続放棄、熟慮期間、最高裁判例、数次相続・代襲相続・同時死亡・相次相続との違い

再転相続とは、相続人が熟慮期間中に相続を承認するか放棄するかを選択しないまま亡くなり次の相続が発生し、前相続人の相続の承認・放棄する権利を引き継ぐことをいいます。

具体的には、祖父が死亡し、法定相続人の父が相続を承認するか放棄するか選択する前に死亡したとき、父の子(祖父から見た孫)は父の法定相続人になると同時に、父が行わなかった「祖父の相続の承認または放棄」の選択を行う権利も引き継ぐことです。

このように再転相続では、子は父の相続の承認・放棄だけでなく、祖父の相続の承認・放棄も決めなければなりませんが、いくら祖父といえ、普段あまり付き合いが無い場合など、どれほどの財産、借金があるのかなどは、調べてみないと分からないことも多く、父に多額の借金があっても、祖父にそれを上回る財産がある場合やその逆の場合など、相続するか放棄するか判断する際に知っておくべき事が多くあります。

再転相続の承認と相続放棄

再転相続が発生すると、連続する複数の相続それぞれに対して承認または放棄を選択することになります。

祖父が亡くなり、熟慮期間中に父も亡くなり、子が相続する場合で、

祖父から父への相続を「一次相続」、父から子への相続を「二次相続」とすると、以下の4つの組み合わせが考えられます。

① 一次相続と二次相続ともに「承認」
② 一次相続「承認」、二次相続「放棄」
③ 一次相続「放棄」、二次相続「承認」
④ 一次相続と二次相続ともに「放棄」

ケース① 一次相続と二次相続ともに「承認」
祖父と父ともに特に大きな債務がないため、「祖父から父への相続」と「父から子への相続」のどちらも承認するようなケースです。

限定承認でも相続放棄でもありませんので特別な手続きは必要ありません。

なお一時相続を承認しますので、父が財産を持っていても、祖父が負債を抱えていた場合は、負債の分だけ相続財産が減ります。祖父の負債が父の財産を超える場合は、全体として負債を相続することになります。

ケース② 一次相続「承認」、二次相続「放棄」
祖父は財産を多く持っているので祖父の相続はしたいが、父には多額の債務があるため父の相続は放棄をしたいようなケースです。

しかし、一次相続を承認して二次相続のみを放棄することはできません。

再転相続とは、2つ以上の相続が立て続けに起こることによって、二次相続の相続人に対して、一次相続の承認・放棄を選択する権利が引き継がれることです。

そのため、父からの相続(二次相続)を放棄するということは、祖父の相続に関して承認・放棄を選択する権利(一次相続)も放棄することになるのです。

そのため、父の負債が財産を上回ることだけを見て相続放棄し、その後で祖父が父のマイナスの財産を大きく超える巨額の資産を持っていたことが分かっても、すでに二次相続の放棄をしているため、祖父の財産は相続できません。

ケース③ 一次相続「放棄」、二次相続「承認」
祖父の財産がマイナスで、父の財産がプラスであるようなケースです。

再転相続人になったことを知った日から3ヶ月以内に一次相続に関する放棄の手続きが必要です。

ただし、祖父に負債を上回る財産があった場合は損することになりますので、一時相続放棄の手続き前に徹底的に財産調査をしておいたほうが良いでしょう。

ケース④ 一次相続と二次相続ともに「放棄」
祖父も父も財産より債務が大きいため、どちらの相続も放棄したいようなケースです。

二次相続を放棄することで、必然的に一次相続も放棄したことになりますので、二次相続放棄の手続きだけで済みます。

ケース③同様、祖父や父に負債を上回る財産があった場合は損することになりますので、相続放棄の手続き前に徹底的に財産調査をしておいたほうが良いでしょう。

再転相続の熟慮期間の起算はいつから?

相続が始まると、相続人は一定期間内に被相続人の財産を相続するか放棄するかを選択しなければなりませんが、この一定期間を熟慮期間と言い、「相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。(民法915条1項)」として、被相続人が亡くなったことを知ってから原則3か月以内に相続放棄や限定承認の手続きを行わなければ、単純承認の選択をしたとみなされます。

なお、再転相続の熟慮期間も原則として3か月とされています。しかしその起算時点については、「相続人が相続の承認又は放棄をしないで死亡したときは、915条1項の期間は、その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から起算する。(民法916条)」とされ、「再転相続の承認と相続放棄」の例でいうと、一時相続の被相続人の死亡を知った時ではなく、二次相続の被相続人の死亡を知ったときとされています。

祖父が6月1日に亡くなり、父が8月1日に亡くなったことを知った場合の熟慮期間の起算は、祖父と父の「相続」もしくは「放棄」の手続きとも、父が死亡したことを知った8月1日となり、その3か月後の11月2日(初日不算入)までに「相続」または「放棄」の手続きを完了させる必要があります。

再転相続の問題点

再転相続の承認、放棄については「再転相続の承認と相続放棄」で述べたように4つのパターンがあり、相続人はいずれかを選択することになりますが、再転相続で問題となるのが「相続人が自分が再転相続人であることを知っているか」ということです。

父の子が祖父の財産を放棄するためには、自分が再転相続人であることを知っている必要がありますが、これを知らずに父の相続を承認し、父が亡くなったことを知ってから3か月が過ぎてしまうと、たとえ祖父に多額の借金があったとしても祖父の相続をしなければなりません。

このように、再転相続では再転相続人になっていることを知らずに、熟慮期間が過ぎてしまい相続放棄ができなくなるというケースが問題となっていました。

しかし、2019年8月9日、再転相続人の熟慮期間に関する問題について最高裁判所は「 民法916条にいう「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、「再転相続人になったことを知った時点」と解すべき」という判断(
平成30年(受)第1626号 執行文付与に対する異議事件 令和元年8月9日 第二小法廷判決
)を示しました。

再転相続との違い

再転相続と数次相続の違い

数次相続とはすでに相続の承認をした後、遺産分割協議や相続登記などの相続手続きが完了しないうちに相続人が亡くなってしまい、新たな相続が開始されることです。

例えば、祖父が死亡し父が相続人となった場合、父が祖父の財産を相続することを承認したが、遺産分割協議や相続登記などを行う前に父が亡くなってしまい、新たに父に関する相続が開始されることです。

再転相続と数次相続とでは、「相続人が亡くなった時期」に違いがあり、再転相続は相続の承認・放棄の選択を行う前に亡くなった場合の相続ですが、数次相続はすでに相続の承認を選択した後に亡くなった場合の相続です。

また、再転相続の場合は祖父から父への相続について、子が承認・放棄の選択をすることができますが、数次相続の場合、祖父から父への相続については父本人がすでに承認をしていますので、子は祖父の財産を相続放棄することはできません。そのため、子は父の代わりに祖父に関する相続の遺産分割協議に参加する必要があります。

再転相続と代襲相続の違い

代襲相続とは、本来の相続人が被相続人よりも前に亡くなり、相続人の子が代わりに相続することです。

具体的には、父が祖父よりも前亡くなり祖父の財産を孫が相続するというケースです。

本来の相続人の代わりに相続するという点では再転相続と同じですが、代襲相続は本来の相続人が亡くなったのが被相続人よりも前であるという点で再転相続とは異なります。

また、再転相続と代襲相続では相続の回数にも違いがあります。再転相続の場合、祖父と父が立て続けに亡くなると、「祖父から父への相続」と「父から子への相続」の2つの相続手続きを行わなければなりません。しかし、代襲相続の場合は父から子への相続はすでに終了しているため、必要な相続手続きは「祖父から子への相続」の1回のみです。

さらに、代襲相続は本来の相続人の死亡だけでなく、相続欠格や相続廃除でも発生します。
相続欠格とは、相続に関して不当な利益を得ようとしたことにより相続権が剥奪されることです。本来の相続人が相続欠格事由に該当し相続権が剥奪された場合は、欠格者の子が代わりに相続することになります。

相続廃除とは、被相続人に対して虐待や重大な侮辱をしたことにより被相続人の意思で相続権を剥奪されることです。相続権が剥奪されるのは、廃除者本人のみですので、この場合も廃除者の子が代わりに相続することができます。

なお、本来の相続人の子が死亡や相続欠格・廃除によって代襲相続ができない場合は、そのまた子へと再代襲相続をすることが可能です。ただし、本来の相続人が被相続人の兄弟姉妹である場合は、その子(甥・姪)までは代襲相続できますが、それ以降の再代襲はできません。

同時死亡との違い

同時死亡とは、災害や事故などで被相続人と相続人が同時に死亡することです。

民法第32条の2では「数人の者が死亡した場合において、そのうちの一人が他の者の死亡後になお生存していたことが明らかでないときは、これらの者は、同時に死亡したものと推定する。」と規定されており、同時に死亡した人の間では、相続は生じないことになっています。

例えば、父と父の両親の3人が乗っていた車が事故に巻き込まれ、全員が即死してしまったケースを考えてみます。民法では、死亡順が明らかでない場合は同時に死亡したものとみなし、両者の間で相続関係は成立しないと定められているため、このようなケースでは父の両親の財産を父が相続することはできません。

これに対して、父と父の両親の3人が乗っていた車が事故に巻き込まれ、父の両親は即死してしまい、父は病院で治療を受けていたものの数日後に亡くなってしまったケースではどうでしょうか。この場合、父は両親が亡くなった時点では生存していることが明らかですので、両親の財産の相続人となることができます。しかし、その後両親それぞれの相続について承認・放棄の選択をしないまま亡くなってしまったため、再転相続が発生することになります。

したがって、父の相続人は父の両親の相続についてもそれぞれ承認・放棄を選択しなければなりません。